裸祭りで有名な岡山の西大寺よりかなりマイナー感が強いが、奈良時代、聖武天皇発願・東大寺に対する、娘 称徳天皇(しょうとく)(孝謙こうけん重祚ちょうそ)発願の西大寺。約48ヘクタール、甲子園球場13個分の広さで二つの金堂と東西両塔、屋根瓦は三彩(さんさい・三色)、緑釉(りょくゆう・緑色)の華麗な大寺院であったそうだ。
平安、鎌倉と時代が下ると、所有の荘園も無くなり、田畠の中に四王堂(しおうどう)、東塔、食堂が残るだけの西大寺を再生したのが、興正菩薩叡尊(こうしょうぼさつえいぞん)である。真言律宗の根本道場として、復興された伽藍は、室町の兵火に会い堂塔を消失、現在は江戸時代復興の本堂、愛染堂、四王堂に、重文の諸仏が並んでいる。
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コロナがようやく落ち着きはじめて、奈良の有名観光寺院は賑やかに観光客が訪れている。 近鉄大阪線、橿原線、京都線、奈良線の要の近鉄大和西大寺駅のすぐそばにありながら、 訪れる観光客は数少ない。国宝の仏堂、国宝の仏像を人混みの中で拝観する寺巡りにつかれたら、西大寺駅のロッカーに荷物を預け、お散歩気分で、中央改札口から右へ。 突き当たりのガラス越し右手に見える、西大寺の東門をくぐってみませんか。
ゆっくりとのんびりと。
入って右手少し高く、広い基壇の上に小さく四王堂(しおうどう)。奈良時代、西大寺で最初に作られたのがこの四王(四天王)堂。 奈良時代の堂は、基壇いっぱいの大きさであろうと言われている。現在の主尊は、長谷寺式の観音菩薩。四天王像は室町時代。西大寺の仏像の中で、奈良時代を残すのは、四天王像に踏みつけられている邪鬼のみ。かがんで、しっかりご覧あれ!そして、この基壇も奈良時代の名残。
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左手に放生池とアカメ柳。嵯峨清涼寺(さがせいりょうじ)ゆかりの能楽百万(のうがく・ひゃくまん)の説明板 藤棚の下はベンチになっている。腰掛けられるのは、ここだけなので、チョツト休憩。
前方から元気な子供の声が聞こえる時がある。西大寺幼稚園。四王堂の土壇西側に きんき の剛が桜の木を植えている。ここの卒業生だそうだ。
石敷きの道をゆくと右手に聚宝館(しゅうほうかん宝物館)、左手は塔頭(たっちゅう)寺院その左手先に五重の塔の基壇が見える。二つめの奈良時代の遺構。その四角い基壇の下にまた八角形の低い囲みがある。称徳帝(しょうとくてい)は八角形七重の塔を建てる途中で崩御された。で、塔は四角い五重塔になった。
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右手本堂は江戸時代の建築。前に立つと自然に手を合わせたくなる大らかな仏堂である。土壁のない総板張り。御本尊釈迦如来立像(しゃかにょらいりゅうぞう)は、叡尊上人が、嵯峨清涼寺・三国伝来のと伝わる栴檀(せんだん)釈迦如来像を写させた尊像。
右に弥勒如来像、左文殊菩薩騎獅像(もんじゅぼさつきしぞう)並四侍者像。キリッと美しい文殊菩薩はなぜ国宝じゃないんだろう。従者の善財童子(ぜんざいどうじ)は、可愛いい! 灰谷健次郎の小説「兎の眼」に書かれている!(本堂、諸仏とも重文) 堂内は国宝金銅舎利容器写しの灯籠で囲まれている。
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本堂右に愛染堂。建物は、京都御所・近衛公政所御殿(このえこうまんどころごてん)を江戸期に移設したもの。叡尊上人が植えられた菩提樹が入り口右手に。叡尊上人念持仏と言われる愛染明王(あいぜんみょうおう)(拝観時期が決まっています。ご確認ください。)は、憤怒の相もどこか優しさが漂う。 別間に国宝叡尊上人寿像。鎌倉時代、蒙古(もうこ)襲来時、日本国中敵国降伏祈願(てきこくこうぶくきがん)の中、石清水八幡に愛染明王を移し「東風を以って船を本国に吹送り、来人(らいじん・蒙古の兵士)を損なう事なく、船を焼失させたまえ。」と願われた。戦の神八幡様に、敵船を東風で大陸に送り、兵士たちを死なす事なく、船だけ焼き尽くせと願われた。仏の慈悲の心とはこのことか・・と。
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愛染堂の隣に見える緑の平和観音像のまだ少し向こうの西塔跡から、寛政六年(1794)奈良時代の金貨・開基勝寳(かいきしょうほう)が1枚出た。この金貨は、今東京国立博物館にある32枚しか現存しない金貨のうちの1枚。この金貨をかたどった落雁が大茶盛で供される。
次の光明殿は、よくご存知の「大茶盛」の会場になる。(常時は、団体のみ受付。新春、春、秋の大茶盛式は、個々に受付けていただける。)この大茶盛式も叡尊上人から始まる。戒律復興を目指し、不飲酒戒の実行とし 延応元年1月16日 鎮守八幡神社に酒ではなく、当時薬でもあった茶を献じ、余服を民衆に振るまったのが始まりとされる。
池の中にお社(青龍大権現社せいりょうだいごんげんしゃ)が一つ。そのさきは可愛らしいお地蔵様がずらりと並んで、南門に続く。
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南門の前で振り返ると、塔の基壇の向こうに本堂が大きく見える。それほど大きくない境内なのに、ゆったり広く見えるのは、五重塔や、丈高い建物がないせいかもしれない。 本坊も少し奥にあるせいか、お寺の方の姿を見るのは、落ち葉、などの清掃時ぐらい。落ち着いた、静かな寺内をほろほろと歩いてふっと力が抜けたら、ざわつく通常世界へ、分をおかず電車が出入りする西大寺駅へ
境内はフリーで入れる。拝観料は三堂(本堂・四王堂・愛染堂)共通800円。 拝観受付場所は、最初に入堂した堂舎となる。