鹿の群れる、囲みの塀なき寺
興福寺は、藤原氏の氏寺として、近江・山科寺、藤原・厩坂寺(うまやさかでら)、を引継ぎ遷都後最初に平城京に建造された寺。藤原一族の氏寺でありながら、北円堂は、元明・元正帝の発願であり、東金堂は聖武帝、五重塔、西金堂は光明皇后が造らせた、ほぼ国の寺である。平安以降江戸期まで、大和の中心の寺であり続けた。明治維新、神仏分離令、廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)と世相が動き、時の流れと言いながら、興福寺を囲いの塀なき寺にし、幾多の国宝級の文物を寺外に流出させた。奈良公園の鹿も、いち時期ジビエの危機があったそうな。今は、幸いなことに、興福寺は世界遺産として、鹿は天然記念物として、大切に守られている。
境内は、ほぼ囲いの築地塀が無い。どこからでも出入りできる。なので鹿の群れは自由に動き群れている。逆に境内を歩いているのに、興福寺はどこですかと観光客に聞かれて、目が点状態になることもある。で、興福寺歩きも、行き当たりばったりのご案内になる。
猿沢池と采女伝説
猿沢池と龍伝説
猿沢池の名は、インドの佛蹟(ぶっせき)・猴(猿の王様)池(びこういけ)にちなんでつけられたそうです。興福寺の放生池(ほうじょうち)として作られた人工池ですが、作られてからすでに千年以上の時が流れ、いくつもの伝説が伝えられています。その一つ、この池の底は、竜宮城に通じていて、竜が住み着いていたが、采女が身を投げたため、死の穢れを嫌って春日山の香山(こうぜん)に移り住んだが、そこにも屍を捨てるものがいて、室生の龍穴に住まいを移したそうです。 中世の説話集、宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)に、猿沢池の龍の話。興福寺の大鼻の僧が、人々から鼻のことでイジられるストレスがたまり、イジったやつらの鼻を明かそうと、某月某日この池の龍が天に昇ると立て札を立てた。噂話の広がりにニタついていたが、当日池の周りどころか三条大路を埋め尽くす人波にひょっとして、まさかと思いながら、南大門の石段からひたすら池を眺めていた。当然何事もなく、日が暮れていった・・と、物語は終わる。が、近代の作家芥川龍之介は、この龍を、小説「龍」で3月3日に天に昇らせてしまいました。(ご一読を)
猿沢池の北側で三条通りが急な登り坂になり終点春日大社の一の鳥居に向かう。猿沢池の西端あたりに、興福寺南円堂への上り石段。東端側から五十二段の石段が興福寺五重塔前に上がる。その真ん中辺に南大門、中金堂正面への石段がある。ここが一番上がりにくい。ただ、一段登るたびに中金堂の金色の鴟尾が、大屋根が、朱色の金堂が嬉しい感動と共に浮かび上がってくる。南大門基壇前は少し広く開けていて、右手にトイレがある。正面竹の柵で四角く囲まれているのが、「般若(はんにゃ)の芝」。鹿は今日もゆったりと休んでいる。この下に尊い経典が納められているかもしれないことも知らずに。(『大和名所圖會,残2巻』に 南大門の「石壇の下なるしばそこ(芝の下に)に、いにしへ(遠い昔)大般若経 (だいはんにゃきょう)六百巻うづまれし(うめられた)ゆゑに、般若の芝と号(いわれた)す。と伝える)
★南大門基壇下 般若の芝
★「西金堂修二会は、仏に捧げる神聖な薪を春日の花山から運び、それを迎える儀式を猿楽に真似させて神事芸能とし、献ぜられた薪は、式の行なわれる手水屋において焚かれ、その浄火の下で猿楽が演じられ、薪猿楽(たきぎさるがく)と称された。」(興福寺HPより) 後に薪猿楽は南大門にて執行されるようになり、薪御能となる。
中金堂
興福寺諸堂は度々の焼失にも、その都度、再建。創建当時の姿を保って現在に至る。 平成30年10月中金堂落慶。7度の焼失も天平の礎石は、「64基」が残り、柱の位置は奈良時代から変わらない。天平の礎石は土をかぶせて保存。その直上に平成の礎石を置いて建立。薬師寺が台湾ヒノキでの諸堂再建だったように興福寺も柱材はカメルーン産、オーストラリア産。日本は木の国ではなかったのか・・・・
★中金堂拝観諸仏
• 金色に輝く主尊・迦如来坐像 (しゃかにょらいざぞう)江戸
• 脇侍・薬王・薬上菩薩立像 (やくおう・やくじょうぼさつりゅうぞう)鎌倉・重文
• 吉祥天倚像(厨子入り) (きっしょうてんいぞう)南北朝・重文
• 大黒天立像(だいこくてんりゅうぞう)鎌倉・重文
• 四天王立像(してんのうりゅうぞう)鎌倉・国宝
・法相柱(ほっそうちゅう) 法相宗の祖師14名を描くこの柱絵は創建当初より、中金堂の柱に描かれ、焼失のたびに再現された。誰が描かれていたかは不明。享保2年(1717)焼失以降はなく、平成30年(2018)の中金堂再建落慶にあわせて、畠中光享画伯によって再現された。
★中金堂国宝文化財案内へ
★拝観時間 9:00~17:00(受付終了16:45) 諸堂は、行事によって拝観不可の場合があります。HP等で前もってご確認ください。
★中金堂拝観料 大人500円 ★御朱印は、勧進所と南円堂納経所で授与
南円堂へ
南円堂 大般若経転読会 10月17日 この日 南円堂開扉
現在の転読法要は、導師の「大般若~」の発声と共に、僧侶各人が大声で経典の題目・訳者を唱えながら折本経典を空中に乱舞させ、読み終わると元の状態に収められます。その様子は、観る者を飽きさせません。現在も慈悲の羂索で衆生を救う南円堂本尊・不空羂索観音菩薩の御宝前で転読法要が厳修されます。御本尊の背後には、天井までの高さがある大きな「不空羂索観音菩薩画像」を奉懸します。 興福寺HPより
★南円堂国宝諸仏案内へ
南円堂のすぐ傍に、ひっそりと小振りの鐘撞堂がある。
興福寺では朝6時、正午、夕方6時の3回鐘をつかれる。
鐘の音が静まってから、次をつかれる。その間静かに、直立の姿勢は崩れない。思わず見入ってしまった。